10月18日(火)京都大学楽友会館で、18時から振津かつみさんの講演会がございます。この企画には当会も協賛しております。
http://peacemedia.jp/event/111018.html
その振津さんのインタビューが、毎日新聞(9月26日大阪版夕刊)の”いま、平和を語る”の記事になっていますので、ご紹介します。振津さんはあまり表に出たがらないので、写真が少なく、ここでも載せませんが、小柄でチャーミングな女性です。”実物”を一目見たい方はぜひ、18日の講演会に足をお運びください(笑)。
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今、平和を語る:医師・ICBUW運営委員、振津かつみさん
◇「フクシマ」を核時代終息の発端に 原発や軍事利用絶とう--振津かつみさん(51)
原爆で、核実験で、劣化ウラン兵器で、そして原発事故で……核放射線は人間を死に至らせたり、深く傷つけたりしている。「フクシマを核時代の終わりの始まりにしたい」。そう語る、国際NGO「ウラン兵器禁止を求める国際連合」(ICBUW)運営委員の医師、振津かつみさん(51)に聞いた。<聞き手・広岩近広>
--東京電力福島第1原発事故が起きてから何度も福島に入り、健康相談や環境汚染の調査をされていますが、現状をどうみられますか。
振津 福島の原発から放出された放射性物質は、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故(1986年4月26日)の3割近くにも相当します。その上、まだ事故の収束には時間がかかります。これまでに公表されている汚染と空間線量率のデータから、「放射線管理区域」に相当する汚染地域に、福島県だけでも100万人以上の人々が住んでいると考えられます。事故によって被曝(ひばく)させられた人々には生涯にわたる健康管理が何より必要です。
--振津さんは91年に「チェルノブイリ・ヒバクシャ救援関西」を設立し、汚染地域を訪問して病院や学校・幼稚園などへの支援を続けています。
振津 最初に訪れたのが事故から5年後です。14歳以下の子どもたちに甲状腺がんが増え始めていました。放射性ヨウ素の内部被曝による健康被害です。現地の医師にしても初めての経験で、検診と治療についても国際的支援を求めていました。
ベラルーシの小児甲状腺がんの年間発症件数は、事故のあった86年には1人でしたが、5年後の91年には55人に増え、95年には90人に達しました。
環境汚染も深刻です。特に森は除染が難しく、ほとんど手がつけられませんでした。森のキノコや野生動物からは25年たった今も高い濃度のセシウムが検出されます。放射能汚染は20年、30年で解決できる問題ではありません。
福島県をはじめ、汚染の広がった地域では、これ以上の被曝を避けるために、居住地区の除染や汚染食品の管理などに国が責任を持って取り組む必要があります。子どもたちを汚染地の外で「キャンプ」に参加させるなどの取り組みも重要です。
広島と長崎の原爆被害を経験した国の医師として、チェルノブイリ支援を通じて、私はこうした原発事故を繰り返してはならないと訴えてきました。しかし、福島の原発で重大事故が起きてしまった。「人類と核は共存できない」ということを改めて、一人一人が真剣に考え、脱原発と再生可能エネルギーへの転換を求めることが重要です。
--ICBUWの運営委員として、劣化ウラン兵器の禁止を求めて活動しています。
振津 劣化ウラン弾は、核兵器や原発に必要な濃縮ウランを生成したあとに出る放射性廃棄物を利用した兵器です。貫通力が強く、調達コストが低いため、世界20カ国以上が保有しています。劣化ウラン弾が戦車など強固な標的に当たると、衝撃の際に非常に高い温度で燃焼します。このとき劣化ウランを含んだ微粒子が大気中に飛散し、環境汚染や健康への影響が指摘されています。
--米軍は91年の湾岸戦争と03年のイラク戦争で大量に使いました。劣化ウランの微粒子を吸い込むと内部被曝を起こすといわれ、投下されたイラクの医師は、がん、白血病、先天障害の増加などを報告しています。
振津 戦後の混乱もあって曝露の証明や疫学調査が難しいため、実際に使用された地域の人々の健康や環境への影響の全てが科学的に解明されているわけではありません。しかし動物実験から、劣化ウラン兵器はがんの発症や免疫機能に影響を与えるなど、私たち科学者はウランの微粒子が、いかに生体に悪影響を与えるかについて、さまざまな基礎的な科学的データを得ています。
それなのに劣化ウラン兵器の保有国は、健康障害は科学的に解明されていないと強弁して、使用し続けています。この間に被害者が増え、多くの命が奪われているのです。
私たちは水俣病など公害病の教訓から多くのことを学びました。人体や環境への深刻な危険性があると考えられる場合には、具体的な対策に取り組むべきです。「予防原則」の考え方からも、劣化ウラン兵器の禁止を求めます。広島と長崎の原爆被害、福島原発事故の被災を経験した国だからこそ、日本政府は「劣化ウラン兵器禁止国内法」を成立させ、在日米軍基地内に貯蔵されている劣化ウラン弾の撤去も求めるべきです。
--劣化ウラン兵器の材料になる放射性廃棄物は、世界でこれまでに150万トンが生み出され、そのうち米国は70万トン、日本の原発でも7000トンといわれています。
振津 来年秋の国連総会で劣化ウラン兵器が議論されます。日本政府は禁止条約の制定に向けて積極的な姿勢をみせてもらいたい。
--劣化ウラン兵器を使った戦争が終わっても、原発事故が収束しても、放射性物質がいったん飛び散ると、人体への影響と環境汚染は長期にわたって続くのですね。
振津 福島は、放射能との闘いが始まったばかりです。福島県は全県民約200万人を対象にした「県民健康管理調査」を国の支援で開始しました。私には懸念が残ります。というのは被曝によって今後生じる可能性のある疾病の予防や早期診断、治療を含む「健康管理」を国の責任で行うことが明確に示されていないからです。小児甲状腺の検診は36万人について行う計画ですが、その他疾病の検診については推計被曝線量が高い約20万人しか行われません。「ストレスからくる不安の解消」が目的とされ、汚染地域で暮らす多くの住民の健康被害が過小評価されかねません。
ここで想起されるのが、原爆投下後に広島と長崎に設けられた米軍による「原爆傷害調査委員会」(ABCC)です。健康影響データを収集するだけで治療を行わないと問題になりました。福島では、あってならないことです。
--いかにすべきですか。
振津 原爆被害者が長年にわたって苦しみ、闘い抜いて勝ち取ったのが「被爆者健康手帳」です。この手帳にならって、原発被災者の生涯にわたる健康フォローと健康と生活の補償を認める「健康手帳」を国の責任で交付すべきではないでしょうか。
私たちは、命と環境を守るためにも、核兵器と原子力発電、放射性廃棄物の軍事利用である劣化ウラン兵器といった一連の核サイクルを絶たなければなりません。(専門編集委員)
■人物略歴
◇ふりつ・かつみ
1959年兵庫県生まれ。臨床内科医として大阪在住の原爆被爆者の健康管理に携わる。05年に大阪大学大学院医学系研究科博士課程を修了、現在、兵庫医科大非常勤講師(遺伝学・放射線基礎医学)。32カ国、155団体加盟のICBUW(本部事務局・英国マンチェスター)で04年から運営委員を務め、世界の核被害者(ヒバクシャ)との連帯、支援を呼びかけている。共編著に「ウラン兵器なき世界をめざして--ICBUWの挑戦」(合同出版)。
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