「環境と公害」(岩波書店、2012年1月号)に「東日本大震災の被災地におけるアスベスト問題」(永倉冬史、外山尚紀)という示唆に富む記事が載っています。今回の震災では原発事故による放射能汚染が大きくクローズアップされたために、それ以外の汚染源、汚染物質に対する警戒を呼び掛けるアナウンスがいささか不足しているように思えます。このブログでも、この点については、まったく取り上げることができてこなかったことは、申し訳なく思っています。とりわけ、津波・震災による直接的被害が甚大だった宮城、岩手の被災地では、アスベスト飛散への対策が、極めて重要です。被災地でのがれき除去は、市街地から集積場への移動などの一定の進展はあるものの、まだまだ緒についたばかりの問題です。以下に同記事のまとめに当たる部分を一部抜粋して(語句の一部を改変、省略していることをお断りします)、ご紹介します。この問題に関心のある方は、ぜひ原文をご参照下さい。(上の写真はスレート材の波板)
参考PDF:国土交通省「目で見るアスベスト建材」
http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/region/recycle/pdf/fukusanbutsu/asbest/20061001medemiruasbest.pdf
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●アスベストのリスクの特徴から考える対策
リスク対策のためにはリスクの特徴を知ることが第一歩である。アスベストのリスクの特徴は、アスベスト含有建材が大量に私たちの周りに残されており、いつでもだれでもリスクにさらされる可能性がある点である。「リスクは存在する」認識に立つ必要があり、特に被災地でのリスクは平常時よりも高いことを前提とすべきである。アスベストがガンを発生させるリスクは曝露した量によって変わり、曝露が大きい程リスクが大きくなり、曝露がこれ以下ならば誰にもリスクを生じさせない量(閾値)が確認されていない。従って曝露量を最小にすることが最善となる。
(1)飛散性の高いアスベスト含有建材の発見と表示・対策
①吹付け材など飛散性の高いアスベスト含有建材について住民、ボランティアと解体業者から情報収集し、それを表示する。
②吹付け材など飛散性の高いアスベスト含有建材除去作業への監視監督を強化する。
(2)スレート材などの石綿含有建材への注意喚起と対策
①スレート材などアスベスト含有形成板について住民、ボランティアと解体業者の注意を喚起する。
②スレート材などのアスベスト含有形成板の除去解体時の対策を徹底する。
・散水による飛散防止。
・分別解体による分別処理。
・石綿作業主任者の選任。
・適切な呼吸用防護具(国家検定合格品)の使用など関係法令を遵守すること。
③スレート材などアスベスト含有形成板の搬送時、がれき置き場での処理を改善する。
・今後解体される建物については対策を徹底する。
・散水による飛散防止のための散水車などの配備。
・搬送時にはトラックに幌を使う。
・がれき置き場ではアスベスト含有建材を分別して回収する。
・がれき置き場にアスベスト含有建材を分別できる人員を養成し配置する。
・これまでに受け入れたがれきについても可能な限り分別する。
・がれき置き場のアスベスト含有建材は散水などにより飛散防止を行う。
・再生、再利用される材料へのアスベスト含有建材の混入を防ぐ。
(3)住民とボランティアへの粉じん対策
被災地ではがれき除去作業が長期的に行われることが予想されるため、アスベストに限らず有害物質が飛散し呼吸器系疾患を引き起こす可能性がある。マスクの使い方は習わなければ理解されない、との認識に立ちマスクのフィットネス研修会を自治体が実施することを提案する。
(4)今後の震災に備えるアスベスト対策を(以下大意を要約)
ひとたび地震が発生すると、アスベスト含有建材は破砕されアスベストが飛散する。そしてその後もがれきの処理の過程で飛散しやすい状態が続く。今回の震災でも一般の住民などのアスベストに対する危機感は薄い。建築防災の視点に立ち、建物のアスベスト含有建材が使われている場所の調査、記録が必要。緊急時に防じんマスクが効率よく配布され装着されるよう、防じんマスクの重要性の認識を高める「マスクプロジェクト」を実施することが必要である。このような取り組みを担う、リスクコミュニケーションの担い手を各地で養成することが重要である。
(写真左は吹付けロックウール、右は石膏ボード、いずれもアスベスト含有建材)
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