以前も「現代化学」の記事をご紹介しましたが、今回は現代化学2011年5月号の“放射能汚染が未来世代に及ぼす影響”(綿貫礼子、吉田由布子)という記事から、その一部をご紹介します。(一部改変:注釈等を加えています)
やや専門的な内容ですが、セシウムによる汚染が軽視できないことが読み取れると思います。
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内分泌系、生殖系の撹乱について
ベラルーシのセシウム137汚染地域(1~5キュリー/平方キロ)に住む20~25歳(事故時12~17歳)の未経産(出産経験のない)女性200人の調査では、セシウムの体内蓄積(9.51~267.96ベクレル/kg)が、生殖器官の代謝、構造、機能的変化や月経機能の撹乱をもたらしており、その頻度や程度は蓄積量と依存性があることが示された。エストロゲン、テストステロン過剰とプロゲステロン低下がみられ、こうしたホルモン調整過程の撹乱は卵胞や子宮内膜の形態的変化を伴っていた(I.N.Yagovdik,Chelnobyl : Ecology and Health,1998)。
チェルノブイリ事故で汚染された村(セシウム濃度5.4キュリー/平方キロ)の3105人の子ども(事故時0~9歳)のうち、287人(9.2%)に甲状腺自己免疫現象(疾患)がみられた。対照群(汚染地ではないところの子ども)では5273人のうち208人(3.9%)であった。甲状腺自己抗体を発生させる脆弱さは、被ばく時の年齢とともに増加し、女性では思春期にその最大に達した(F.Paciniほか, Lancet, 1998)
註:自己免疫疾患とは、異物を認識し排除するための役割を持つ免疫系が、自分自身の正常な細胞や組織に対してまで過剰に反応し攻撃を加えてしまうことで症状を来す疾患のこと。
チェルノブイリ被害者支援活動を続けるドイツ人医師、ジーデンドルフ女史インタビュー
返信削除ドイツ国営放送ARDのニュース番組、TagesschauのHPに
チェルノブイリ被害者救済活動を続けるドイツ人女医、
デルテ・ジーデンドルフ氏へのインタビュー記事が掲載されています。
http://www.tagesschau.de/ausland/tschernobyl134.html
以下、翻訳しました。
「チェルノブイリは遺伝子の中で荒れ狂う」
チェルノブイリ事故から四半世紀が経過した。しかし、被曝被害は広がる一方だとデルテ・ジーデンドルフ氏は語る。ジーデンドルフ氏は20年前からベラルーシで医療支援活動を行い、同時に反核運動にも関わって来た。
Tagesschau: ジーデンドルフさん。あなたは1990年以来、ベラルーシの各地を定期的に訪れてチェルノブイリ事故の被害者の救済活動を続けていますね。ベラルーシではどんな事故の影響が見られるのでしょうか。
Siedendorf: 風で運ばれた放射性降下物の量はベラルーシが最大でした。私達の組織のある町の姉妹都市であるKostjukowitischi市はベラルーシ東部の、チェルノブイリから約180km離れたところにあります。その地方の1/3が放射性物質で汚染されました。3万5000人の住民のうち8千人が移住しなければなりませんでした。30以上の村が取り壊されるか、埋められました。
Tagesschau: 現在はどうなっていますか。
Siedendorf: 他のどんな災害とも異なり、被曝被害というのは時間が経つにつれて拡大します。逆さにしたピラミッドのようなものです。フクシマ事故に関しては、今、そのピラミッドの一番下の先の部分にある状態です。チェルノブイリはそれよりももう少し進んでいる。チェルノブイリは遺伝子の中で猛威を振るっています。いえ、遺伝子だけではない、遺伝子が操作するすべての細胞にチェルノブイリが巣食っているのです。25年経った現在は、主に低線量被曝が問題となっています。
Tagesschau: どのような経路で低線量被曝するのでしょうか?
Siedendorf: たとえばストロンチウムやセシウムなど、半減期が30年ほどの核種に被曝するのです。この30年という半減期ですが、10倍にして考えなければなりません。これらの核種が生物学的サイクルからなくなるまでにそのくらいの時間がかかります。300年という年月はヒトでいうと8~10世代に当たりますが、この間は被曝による病気が増えると考えられます。
Tagesschau: 放射性物質はどこにあるのですか?
Siedendorf: ベラルーシでは放射性物質はもうとっくに地下水に入り込んでいます。ベラルーシには湿地や砂地があり、地下水脈はそう深くありません。 放射性物質は一年に2cmのペースで地下を降下すると考えられています。今は地下50cmくらいです。その地下水から放射性物質は植物や動物に取り込まれます。砂地ではガイガーカウンターを当てても、今ではもう反応しません。その反対に、森では枯れ葉やコケがあって放射性物質は地中に入り込みませんから、地表に残っています。落ち葉の多い場所や森の縁ではガイガーカウンターが反応します。雨水が溜まる窪地も線量が高いです。
Tagesschau: どのような援助をなさっているのですか?
Siedendorf: 最初の10年間は薬品の原料を現地に運び、薬局で点眼薬や点耳薬、座薬などが調合できるようにしていました。10年前からそれは許可されなくなり、現地の薬局は国が購入して配る医薬品しか販売してはいけないことになりました。
Tagesschau: それはうまく行っているのでしょうか?
Siedendorf: まあ、大体は。でも、特殊な医薬品が不足しています。どういう医薬品が認可されるかは薬を登録しようとする医薬品メーカーが払う賄賂の額で決まるのです。たとえば、ベラルーシには国に認可されているインシュリン薬は二種類しかないのが問題です。子どもに投与するには別のインシュリンが必要な場合が多いのです。糖尿病は、チェルノブイリ事故の後、子ども達の間に急激に増加した病気の一つで、新生児でも糖尿病を発症するケースがあります。そのような場合には私達は個別に援助します。
Tagesschau: 何故、子どもの糖尿病が増加しているのですか?
Siedendorf: セシウムによる低線量被曝が原因だと考えられます。食物連鎖を通じて妊婦の腸内に取り込まれます。子宮内で胎児の膵臓の発達が阻害されるのです。膵臓はインシュリンを分泌する、非常に繊細な器官です。子どもは三歳になるまで修復機能を備えた免疫系を持ちません。また、子どもは大人よりも細胞分裂が速いです。細胞がちょうど分裂するときに放射線を浴びると、影響が大きいのです。ですから、子どもの場合、ほんの少しの線量の被曝でも成長が妨げられてしまいます。
Tagesschau: 残存する放射線の影響は他にはどんなものがありますか?
Siedendorf: たとえばよく言われるのは、チェルノブイリの近くに住む人達は神経質で、「放射能恐怖症」にかかっているということですね。だから、彼らは何をやっても集中できないのだと。しかし、これは汎発性の脳障害なのです。人が生まれて来た後に最も頻繁に細胞分裂する器官の一つが脳ですから。チェルノブイリ事故後の最初の世代では夫婦の30%が子どもに恵まれていません。ドイツでも10%がそうです。遺伝子が傷つけられたことで流産や早産、そしてその結果、乳幼児の死亡が増えています。胎児の段階で死なずに生まれて来れば、障害は次の世代へと受け継がれます。
Tagesschau: チェルノブイリ事故の被害者数に関してはいろいろな説がありますが、これはどうしてでしょうか?
Siedendorf: 統計を取っている方から聞いたのですが、行政から「これくらいの数字にしてくれ」と指示されるようですね。お上の言う通りのことを書かないと報奨金がもらえない。2010年の統計には癌患者はほとんど含まれませんでした。若くない人は皆、老衰で亡くなったということになってしまうのです。癌患者の中には他の原因で亡くなる人もいますし。ですから、ベラルーシやウクライナのような独裁的な国の統計は当てになりません。病気の原因を被曝以外のものにした方が国にとっては安く済みます。原子力ロビーと独裁政治は相性が良い。どちらにとっても、チェルノブイリは終わったものとした方が都合がよいのです。しかし、人々はこう言います。「チェルノブイリは私達の人生そのものだ、とね」
Tagesschau: WHOやIAEAはどのような役割を担っているのでしょうか。
Siedendorf: チェルノブイリの健康被害について私達の知らないことがたくさんあるのは、1959年にWHO とIAEAの間に結ばれた秘密の協定のためです。WHOに被曝による健康被害について何を調査し、何を発表するかはIAEAが決めているのです。そのために多くの国際学会の開催が中止になり、ロシアやベラルーシ、ウクライナの研究者の低線量被曝に関する研究は発表されませんでした。しかし、幸いにも2009年にニューヨーク科学アカデミーがこれらをまとめて発表しました。
Tagesschau: フクシマの被害はどのくらいになると予想されますか?
Siedendorf: フクシマの被害はチェルノブイリ以上になるのではないかと思います。まだ事故は収束の目処が立っていませんし、非常に毒性の強いプルトニウムが放出されています。どれだけの量の放射性物質が海に流れ込んだのか、そしてそれはどこへ向かっているのかについて私達はまったくわからない状態です。それに、日本は人口密度が高く、ベラルーシとは比較できません。また、日本では飲料水は山で採集されています。山が放射性物質を含んだ雲の拡散をせき止め、放射性物質は海岸沿いの狭い地域に溜まっています。9ヶ月で事故処理すると日本政府は言っていますが、まったく馬鹿げています。そんなことは空約束に過ぎません。
デルテ・ジーデンドルフ女史は現在は退職した一般医で心理セラピスト。1990年よりチェルノブイリ事故で被曝したベラルーシの村々を定期的に回り、特に被害者に対する医療体制の改善に力を尽くして来た。ジーデンドルフ氏の組織は1991年以来、合計800人以上の子どもとその付添人を保養のためにドイツへ招待している。組織が所在するディーツェンバッハ市とベラルーシのKostjukowitschi市は姉妹都市となった。氏は国際組織「核戦争防止国際医師会議」(IPPNW)の会員でもある。69歳。
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